はじめに
「初期評価って、何を見ればいいんですか?」 新人の頃は、こんなふうに悩むことが多いですよね。 先輩によっても見る視点が違うし、病院や施設ごとにやり方が異なるので、何が正解か分からなくなってしまうこともあると思います。
でも私は、「その人らしい生活に戻るために、何が必要か」を考えることが初期評価の一番大切なポイントだと思っています。
もちろん、施設によってはチェックリストが用意されている場合もあります。でも、初期評価はただチェックリストを埋める作業ではありません。
大切なのは、その人がどんな生活を送ってきたのか、何に価値を感じて生きてきたのかを知ること。
私は「その人らしい生活を再び送る」ことをテーマに作業療法を提供しています。 だからこそ、初期評価で生活歴を聞くことを大切にしています。
1章:初期評価は「目標設定のヒント探し」
作業療法の目標は、数値だけでは決められないと私は思っています。
たとえば、関節可動域の改善や体力・筋力の向上、歩行自立など、機能面の目標だけを掲げてしまうと、「その先の生活」は見えてこないことが多いです。
患者さんに「目標は何ですか?」と聞くと、多くの方が「歩けるようになりたい!」と答えます。 でも、「歩行自立」はあくまで手段です。 その歩行自立は、何のために必要なのか? どのくらいの距離を歩けるようになりたいのか? 家の中だけなのか、外出もしたいのか?
こういったことまで考えないと、本当にその人に合った目標にはなりません。
もし、「歩行自立=病棟内で歩ければOK」とセラピストが考えてしまったらどうでしょう。 クライアントが実は「家から片道30分歩いて買い物に行きたい」と思っていた場合、病棟内だけの歩行練習では全然足りませんよね。
さらに、買い物をして自分で料理をすることがその方の生きがいだったとしたら? 機能面だけを見て目標を立ててしまうと、大切な生活を奪ってしまうことにもなりかねません。
目標設定は、セラピストの頭の中だけで決めるものではありません。 クライアントやご家族と一緒に考えていくことが大切です。
「独りよがりな目標設定」は、結局クライアントのためになりません。 だからこそ、生活歴を知ることが必要なんです。
2章:「生活歴」を聞くときに私が必ず聞くこと
では実際に、どんなふうに生活歴を聞けばいいのでしょうか?
私が意識しているのは、「何ができなくなったか」よりも「元々どんな生活をしていたのか」を知ることです。
具体的には、こんなことを聞いています。
- どんなお仕事をしていましたか?
- お休みの日は何をしていましたか?
- 家の中ではどんな役割を担っていましたか?(料理、掃除、地域活動など)
- 1日の中で好きな時間や楽しみは何でしたか?
「いきなりこんなこと聞いても大丈夫かな?」と心配になるかもしれませんが、雑談の中で自然に聞けるとベストです。
「へぇ、畑やってたんですね!何を育ててたんですか?」 「昔はどのくらい歩いて買い物に行ってたんですか?」
こんな会話の延長が、生活歴の情報になります。
ご本人から聞きづらい時は、ご家族に確認するのもおすすめです。 ご家族から「家ではこんなふうに過ごしていましたよ」と教えてもらえることもあります。
それから、新人さんに伝えたい大事なことがあります。
生活歴は、その日1日で全部聞き出せなくても大丈夫です。
評価は1日だけで終わるものではありません。 毎日の関わりの中で、少しずつ聞き取っていけばOKです。
「今日聞けなかった…」と落ち込む必要はありません。 むしろ、毎日評価するという気持ちで関わることが大切です。
3章:「生活歴」を聞くと提案が変わる|実例紹介
実際に、生活歴を聞いたことでリハビリの提案が大きく変わったケースがあります。
以前担当した男性のクライアントさんは、「歩けるようになりたい」とおっしゃっていました。 でも、詳しく話を聞くと、「自分で釣った魚をさばいて料理するのが好きだった」と教えてくれたんです。
釣りに行くには、体力もバランス感覚も必要ですよね。 魚をさばくには、手先の細かい動きも求められます。
もしこの情報がなければ、「病棟内歩行ができればOK」と考えてしまっていたかもしれません。
でも、「また釣りに行きたい」という生活歴を知ることで、リハビリの提案は大きく変わりました。
- 安全に釣りに行くための体力作り
- 長距離歩行の練習
- 手先のリハビリ
こういった支援を一緒に考えました。
その方は、退院後に「久しぶりに釣りに行けたよ!」と報告してくれました。 そのときは本当に嬉しかったです。
このように、生活歴を知ることでリハビリは「その人らしい目標」に変わります。
4章:新人さんが「生活歴」を聞くときのコツ
新人さんにとっては、「生活歴ってどうやって聞けばいいんだろう?」と不安になることも多いですよね。
でも安心してください。 一気に全部聞こうとしなくて大丈夫です。
何回か会う中で、少しずつ聞いていけばOK。
私はこんなコツを意識しています。
- 「何ができなくなりましたか?」ではなく「元々どんな生活をしていましたか?」と聞く
- 雑談の中から情報を拾う
- 写真やアルバムを一緒に見ながら話す
- 家族や他職種からも話を聞く
「評価=検査項目を埋めること」と思いがちですが、実はそうではありません。
大事なのは、「この人はどんな生活をしてきたんだろう?」と興味を持つことです。
「また○○がしたいんだよね」 「昔はこんなことしてたんだよ」
そんな話が出てきたら、それがもう立派な生活歴の評価になっています。
まとめ:「その人らしさ」を大切にする目標設定を
作業療法は、「その人らしい生活を再び送ること」を支援する仕事です。
だからこそ、初期評価の時点で「この人はどんなふうに生きてきたのか」「どんなことに価値を感じているのか」を知ることがとても大事です。
数値や検査データだけでリハビリを進めてしまうと、「ただの機能訓練」になってしまうこともあります。
ぜひ、新人OTさんには「生活歴を聞くこと」を意識してみてほしいです。
それができると、リハビリの提案が自然と「その人らしい目標」に変わってきますよ。
「この人にとっての生活って何だろう?」 「本当に必要な支援って何だろう?」
そんなことを考えながら、ぜひクライアントさんと向き合ってくださいね。
この記事では、初期評価で「生活歴をどう聞き取るか」についてご紹介しましたが、実際の評価場面では「何を・どの順で聞くか」「どう記録に落とし込むか」で悩むことも多いですよね。
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