※この記事は作業療法学生・新人OT向けに、実際の臨床推論のプロセスを架空事例で解説したものです。実際の臨床では必ず指導者の判断に従ってください。
はじめに|実習で「どうすればいいか」わからなくなったことはありませんか?
作業療法の実習に出ると、授業では習わなかったことが山ほど出てきます。
「評価はできた。でも次に何をすればいい?」 「先生に聞いても、その場ではわかった気がするけど後で思い出せない」 「介入プログラムって、どうやって組み立てるの?」
こういった悩み、私も学生時代にたくさん抱えていました。
この記事では、架空の事例をもとに、私がどんなふうに考えてアプローチを組み立てるかをできるだけそのまま言語化してみます。
OTとしての”頭の中”をのぞいてもらえれば、実習や新人時代のヒントになるはずです。
大前提|OTは「障害」ではなく「生活」を見る
介入の話をする前に、私がいつも大切にしていることをお伝えします。
それは、「障害や機能を見るのではなく、その人の生活を見る」ということです。
「右手が動かない」「握力が低下している」といった機能面はもちろん把握します。
でもそれは手段であって、目的ではありません。
私が最初に考えることは、こういうことです。
- この人は、どんな人生をまた送りたいと思っているだろう?
- この人に、どんな生活を送ってほしい?
機能が落ちたからといって「あれができない、これができない」と伝えることがOTの仕事ではありません。「できる方法を一緒に探すこと」が私たちの役割です。
今回の架空事例
Aさん・70代女性
- 診断名:脳梗塞(右片麻痺・軽度)
- 発症からの経過:入院2週間
- 麻痺の状態:右手は少し動くが、握力低下・巧緻性(細かい動き)の低下あり
- 生活状況:夫と二人暮らし、発症前はほぼすべての家事を担っていた
- 本人の希望:「早く自分でご飯を食べたい」「ちゃんと身だしなみも整えたい」
ステップ①|まず「生活を聞く」面接から始める

評価表を持って機能を測る前に、私はまずAさんとゆっくり話す時間を取ります。
「発症前はどんな生活をされていましたか?」
「退院したら、まず何をしたいですか?」
「どんなことが今一番不安ですか?」
こういった会話の中で、その人の価値観や優先順位が見えてきます。
Aさんの場合、話の中でこんなことがわかりました。
- 「食事は自分で食べないと気が済まない性格」
- 「夫に着替えを手伝ってもらうのが恥ずかしい」
- 「毎朝洗顔と口紅は欠かさなかった」
数字に出てこない、でもその人にとってとても大切なことが、会話の中にたくさんあります。
📝 関連記事:生活歴の聞き方をもっと詳しく知りたい方はこちら →新人OTさんへ|”初期評価は生活歴から”を私がすすめる理由
ステップ②|機能評価で「今の状態」を把握する

会話で生活像をつかんだら、次に機能面を確認します。
Aさんの場合、確認したポイントはこちらです。
- 握力・ピンチ力(どのくらい握れるか)
- 手指の巧緻性(細かいつまみ動作はできるか)
- 上肢の関節可動域(肩・肘・手首はどこまで動くか)
- 感覚(触れている感じ・温度はわかるか)
- 体幹のバランス(座った姿勢は安定しているか)
評価の結果、Aさんは「物を握る」ことはできますが、細かい力加減の調整が難しい状態でした。
📝 関連記事:評価の視点についてはこちらも参考に →作業療法実習で評価がわからない学生さんへ|現場で役立つ”見るべきポイント”まとめ
ステップ③|ゴールの「ズレ」と擦り合わせ

ここが、臨床でとても大切なところです。
Aさんの希望は「自分でご飯を食べたい」。そして当然、「発症前と同じように箸で食べたい」という気持ちがあります。
でも私の目から見ると、今の状態で以前と同じ箸使いに戻るのは、かなり難しい。
こういうとき、セラピストの視点と本人の希望にズレが生じます。
このズレを無視して「箸は難しいのでスプーンにしましょう」と一方的に決めてしまうのは、よくありません。本人が納得していなければ、どんなに良いアプローチも続きません。
そこで私がするのは、一緒に考えることです。
「Aさん、箸で食べたいお気持ち、すごくよくわかります。今の状態を正直にお伝えしながら、一緒にどうするか考えさせてください」
そして選択肢をいくつか提案します。
選択肢① 補助箸を試す グリップがついていて握りやすく、開閉もしやすい補助箸があります。「箸で食べる」という形を保ちながら、負担を減らすことができます。
選択肢② スプーン・フォークを使う 「自分で食べる」というニーズを優先するなら、道具を変えることも一つの方法です。「箸じゃなくてもいい」と本人が納得できるかどうかが鍵です。
選択肢③ まずは補助箸で練習しながら、箸の回復を目指す 並行して右手の機能訓練も行い、将来的に通常の箸に近づけることを目標にします。
Aさんと話し合った結果、「まず補助箸で食べてみたい。訓練も頑張りたい」という結論になりました。
ゴールは、セラピストが決めるのではなく、一緒につくるものです。
ステップ④|ADL別の具体的なアプローチ

食事
- 補助箸の導入と練習
- 食器の工夫(すべり止めマットで食器を固定する)
- 適切な座位姿勢の確認(体幹が安定していると上肢が使いやすくなる)
更衣
- 「患側(麻痺側)から着て、健側(麻痺のない側)から脱ぐ」基本の伝え方
- ボタンの留め外しが難しい場合はボタンエイドの活用
- 前開きの衣類やマジックテープへの変更提案(本人の了解を得て)
整容(洗顔・口紅など)
- 洗面台での座位姿勢の安定を確認
- 右手でできる動作と、左手(健側)で補助する動作を整理
- 口紅については、鏡を見ながら健側主体で塗る練習から始める
📝 関連記事:介入の記録の書き方に迷ったらこちら →【もう迷わない!】SOAPでスッキリ書ける作業療法の記録のコツ|新人OT・学生向けガイド
おわりに|「できない」ではなく「どうすればできるか」を考え続ける
作業療法士の仕事は、病気や障害を「治す」ことではありません。
その人が「その人らしい生活」を取り戻せるよう、一緒に考え、一緒に歩むことだと私は思っています。
実習中は、焦って機能ばかり見てしまうこともあると思います。でも、ちょっと立ち止まって、「この人はどんな生活がしたいんだろう?」と考えてみてください。
そこから、アプローチのアイデアが自然と生まれてくるはずです。
この記事はあくまで一つのOTの考え方を紹介したものです。臨床では個人差や状況によってアプローチは異なります。実習中は必ず指導者の先生と相談しながら進めてください。

