親が歳を重ねると気になってくるのが「介護」の問題ですよね。
まだまだ元気だと思っていたのに、突然親の介護がやってくる…というケースもあります。
突然親の介護をすることになった場合、何をしてあげたら良いのか?何を準備したら良いのか?
今まで親が自分で出来ていたことを、どのようにサポートしていけば良いか悩みますよね。
現場で働く作業療法士として、私も数多くの高齢者のリハビリに関わってきました。
その中で私がいつも感じるのは、「ちょっとした心がけ」で、その人らしく元気に暮らし続けられる可能性が広がるということ。
この記事では、現場で得た視点をもとに、親の介護を始めるときに気をつけてほしい3つのポイントをご紹介します。
これからの介護に不安がある方も、少しでもヒントになれば嬉しいです。
ポイント①やりすぎない介護
病気やケガで今までの生活ができなくなった親をみると、もうこれ以上ケガをして欲しくない!安全に生活して欲しい!と思いますよね。
確かに安心・安全に暮らしてほしいという気持ちは大切です。
しかし、そんな親切心も介護を受ける当事者にとって良くない方に向かってしまうことがあります。
必要以上の介護(過介助)は介護を受ける人の「できること」を奪ってしまうことがあるんです。
まだ自分でできる能力があるにも関わらず、やってもらうことが続くとどうなるでしょうか?
自分で動く機会がなくなるので、本来ならできていた生活動作ができなくなってしまいます。
では、本人のできる能力を発揮しつつ、安心安全に介護するにはどうしたらよいのか。
以下によくある介護の例を3つあげてみます。
NG:介護者がやったほうが早く済むという理由で、靴の脱ぎ履きを介助してしまう
→本人の「できる動作」の機会を奪ってしまう
OK:自分で脱ぎ履きできるようにサポートする
介助される人が転倒・転落のない環境を整える(椅子を用意する・手すりを設置する)
靴を手で操作することが難しい場合は靴ベラやマジックハンドを利用する
→環境設定をして「できる動作」の機会を作る
NG:こぼしそうだからと介護者が全て食べさせてあげる
→飲み込む力や、手を動かす能力が低下するリスクがある
OK:カトラリーをスプーンに変更する、必要に応じて滑り止めマットを使用するなど
→自分で食べる行為を維持する工夫をすることが大切
NG:「失敗したら困るから」と毎回オムツにしてしまう
→トイレに行く能力や意欲が低下するリスクがある
OK:トイレに座るまでは見守り、必要があればズボンの上げ下げだけサポート
→トイレの習慣を維持することで、自尊心にもつながる
上記は日常生活の例の一部です。
どうしても心配な気持ちから、つい手を貸してしまいがちですが、”まずは見守ること”が介護の第一歩です。
何ができて、何が苦手なのかを観察して、必要な部分だけを助けてあげることが、親の自立を維持するポイントになります。
ポイント②できることを見極めて「任せる」
「転んだら大変だから…」「時間がかかるから…」と、どうしても先回りして動いてしまう。
でも、家族だからこそ、信じて任せることも大切なんです。
作業療法士としてのリハビリでは、「その人にとってできることを、なるべく自分でやってもらう」が基本です。
たとえ時間がかかっても、「できた!」という体験が、その後の回復や生活意欲につながるからです。
例えば、食事の準備や洗濯ものなど日常生活をきりとって、どのような対応が良いか説明します。
NG:「危ないから包丁は触らせない」「全部こっちで準備するから座ってて」
→ 本人の“役割”を奪ってしまい、「もう何もできないんだ」と気力をなくすことも。
OK:「野菜をちぎるのお願いできる?」「盛り付けだけ手伝ってもらえる?」
→ 手先を使うことでリハビリにもなり、本人も「自分は役に立っている」と感じられます。
NG:「洗濯物を干すのも、たたむのも時間がかかるし、私がやった方が早い」
→ 効率を優先しすぎると、本人の“生活の一部”を奪うことに。
OK:「タオルだけたたんでもらえる?」「自分の服だけ一緒に干そうか」
→ 小さな役割でも「自分でできた」という感覚が残り、活動意欲にもつながります。
たとえば、食事の準備をすべてこちらでやるのではなく、テーブルにお箸を並べてもらう、食器を運んでもらうなど、ちょっとした役割をお願いするだけでも大きな意味があります。
「心配だけど、見守る」「時間がかかっても、自分でできた経験を大事にする」
そんなスタンスで接してみると、親の表情や動きに変化が見えてくるかもしれません。
ポイント③「できない」と決めつけず「どうすればできるか」を考える
介護が始まると、「うちの親はもう○○ができない」と思ってしまうこともありますよね。
でも実は、「やり方を工夫すれば、できること」は意外と多いんです。
- 段差でつまずく → スロープを設置する、手すりをつける
- 立ち上がりが大変 → 椅子の高さを調整する、立ちやすい位置に配置する
- 着替えに時間がかかる → 前開きの服に変える、滑りのよい素材を使う
これらはすべて“環境調整”という支援の一つ。
作業療法士は、介護を受ける方がどのように工夫をしたら、できない→できるになるかを考えます。
「できないこと」を受け止めるだけではなく「できるように変えていく」視点を持つことが大切。
それが、本人の自立と尊厳を守ることにもつながります。
まとめ:やさしさと自立支援のバランスを大切に
親の介護が始まると、「どう支えればいいのか?」と悩む場面がたくさんあると思います。
でも大切なのは、「全部やってあげること」ではなく、「できる力を信じて支えること」。
- ついやりすぎてしまいそうなときは、一度立ち止まって「今、本当に手を出す必要があるか?」を考える
- 「できない」ではなく、「どうすればできるか」を一緒に探してみる
- 親の自信や誇りを守ることが、結果的に介護をラクにすることにもつながる
親への優しさ・思いやりが、時には、本来できる能力を奪ってしまうこともあります。
「できることを増やす」サポートで、親の人生に寄り添えたらいいですね。
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